大問4(B)からです。下線部ではないですが、“If you say that, tommorrow we will return empty from the hunt,”という文が出てきます。
さて、このemptyははbeing emptyの省略でしょうか。結論から言うと、そうではありません。「手ぶらで帰る」を英語で表現する際にreturn empty-handedと言うことがありますが、この empty は単体で名詞を修飾しているわけではなく、基本的には empty-handed(副詞的・補語的に使われる形容詞) という一つの単語として機能しています。
return empty-handedの empty-handed は、文法的には主格補語(あるいは準補語 / 擬似補語)と呼ばれる働きをしています。いわゆるSVCの構文です。
He returned safe. (彼は無事に帰ってきた。「彼=無事な状態」)
He returned empty-handed. (彼は手ぶらで帰ってきた。「彼=手が空っぽの状態」)
この文型では、動詞(returned)の後に形容詞が直接続き、「主語が~な状態で(動詞)する」という意味を表します。ここに分詞構文を作る being を補う必要はなく、形容詞がそのまま動詞の表す動作・状態に伴う形になります。
(ちなみにemptyには副詞の用法はありません。)
もし He returned empty. と言うと、文脈によっては「(人間の中身が)空っぽになって帰ってきた(精神的に燃え尽きた、あるいは胃袋が空っぽなど)」という意味に聞こえてしまい、「手ぶら(お土産や成果がない状態)」という意味にはなりにくいです。「手ぶら」を正確に表すには、やはり -handed(〜の手を持った)をくっつけた empty-handed という形容詞にする必要があります。しかし、ここではfrom the huntがあるので誤解の生じる余地はありません。
もし無理やり being を使った分詞構文(付帯状況など)のニュアンスに分解するとしても、省略されているのは being empty ではなく、being empty-handed になります。
He returned, (being) empty-handed. (彼は、手が空っぽの状態で帰ってきた)
しかし、一般的には分詞構文の省略として捉えるよりも、前述の「return + 形容詞(〜の状態で帰る)」という文型(SVC)として解釈するのが最も自然で学術的にも一般的です。
さきほどこの構文はSVCだと書きましたが、よく考えると不思議な感じがします。なぜなら、return(戻る)という動詞自体は本来、後ろに補語を必要としない完全自動詞(SV)だからです。
学校文法では、return を be動詞 や become と同じような「~という状態である/になる」という不完全自動詞の仲間として扱います。
He was empty-handed.(彼は手ぶらだった)
He returned empty-handed.(彼は手ぶらで戻った)
意味的にも「S = C」の関係(彼 = 手ぶら)が成立しているため、形式的にSVCとみなして差し支えありません。
一方で、言語学や一歩進んだ文法書では、これを純粋なSVCとは区別し、「SV + 準補語(あるいは記述的補語)」と呼びます。なぜなら、He returned.(彼は戻った)だけで文としては完全に意味が成立しているからです。そこに、おまけ(付加的な情報)として形容詞をくっつけているという捉え方です。
本来は He returned.(SV)という「動作」の文に、He was empty-handed.(SVC)という「状態」の文を1つに融合させたものです。他の分かりやすい例を挙げると、以下のようになります。
The sun rose bright. (太陽は輝かしく昇った = 昇ったとき、太陽は輝いていた)
He died young. (彼は若くして亡くなった = 亡くなったとき、彼は若かった)
She sat motionless. (彼女は微動だにせず座っていた = 座っているとき、彼女は動かなかった)
これらもすべて、bright や young、motionless という形容詞が、主語(S)がその動作をしたときの状態を説明しています。
SVCの場合、Cが必然の場合と、補足説明の場合とに分かれるというわけです。
- 必然の補語:必須補語(Obligatory Complement)
これが、いわゆる「純粋なSVC(第2文型)」です。動詞の意味自体が不完全なため、Cがないと文として成立しない、あるいは全く別の意味になってしまうものです。
He became… (彼は〜になった → 何に?)→He became a teacher.(teacherは絶対に必要)
She looks… (彼女は〜に見える → どんな風に?)→She looks happy.(happyがないと意味をなさない)
これらは動詞と補語がガッチリ結びついており、Cを削ることはできません。
- 補足説明の補語:随意補語(Optional Complement)/ 準補語
今回の He returned empty-handed. や He died young. がこちらです。動詞自体は完全自動詞なので、Cがなくても文としては100%成立しますが、主語の「その時の状態」を後付けでプラスしているものです。
He returned. (文として成立:彼は戻った)→He returned empty-handed. (補足:戻ったとき、彼は手ぶらだった)
He died. (文として成立:彼は亡くなった)→He died young. (補足:亡くなったとき、彼は若かった)
これと直接関係ないのですが、I live in Tokyo.のような文は高校ではin TokyoをḾを修飾語と考え、SVの第1文型と考えますが、実際はI liveだけでは意味が通じないので省略可能な「修飾語」ではありません。
I live. だけでは「私は(この世に)生存している」という極めて特殊な意味になってしまい、「東京に住んでいる」という居住地を表す文としては成立しません。つまり、in Tokyo は省略できない必須の要素です。
この矛盾を解消するために、現代の言語学やイギリス・アメリカの文法(記述文法)では、「5文型を拡張した考え方」
が主流になっています。
- 現代言語学の解答:SVA(第6文型)
現代の代表的な英文法書(『A Comprehensive Grammar of the English Language』(Randolph Quirk / Sidney Greenbaum / Geoffrey Leech / Jan Svartvik 共著)』など)や英語圏の言語学では、5文型に A(Adverbial:副詞句・状況語) という要素を加え、SVA という文型として分類します。
この A は、形こそ「前置詞+名詞(副詞句)」ですが、修飾語(M)のように自由に省略することはできない「必須の副詞的要素」と定義されています。
同じように、5文型では「M(修飾語)」とされながら、実際には絶対に省略できない例はたくさんあります。
The book is on the table.
5文型での解釈: SV(on the table は修飾語M)
現実: The book is.(その本は存在する)では意味が通じない。場所を示す on the table(A)が必須。
He put the key in his pocket.
5文型での解釈: SVO(in his pocket は修飾語M)
現実: He put the key.(彼は鍵を置いた・入れた)では「どこに?」となって未完成。場所(A)を含めた SVOA が必須。
5文型という19世紀末に作られた古い枠組み(オニオンズらによって体系化された枠組み)に、すべての英文を綺麗に当てはめること自体に無理があるのです。