今回は、とある大学入試の問題の1文について考えてみましょう。
Large size isn’t the advantage it once was; variety and flexibility will be more important in determining success.
(企業などの規模の大きさは、以前ほど強みではなくなっている。今後は、成功を決めるうえで、多様性と柔軟性のほうがより重要になっていくだろう。)
この文ではいわゆる「接触節」が使われています。接触節とは、名詞のすぐ後ろに、関係代名詞なしで S+V の節がぴったり「接触」してくっついている形です。 例:the book I bought yesterday(私が昨日買った本)
接触節を見たときの読み方はこうです:「名詞+SV…」を見たら、節の中の『欠けているもの』を探せ。
では、この問題文では何が欠けているのでしょうか。
Large size isn’t the advantage [ it once was _ ].
節の中は it(S)once(副詞)was(V)。was は be動詞ですから、目的語ではなく補語(C)を必要とする動詞です。ところがその補語がない。つまり今回欠けているのは目的語ではなく補語です。
そこで that を補って本来の形に戻すと、
the advantage that it once was(それ〔=大きな規模〕がかつてそうであったところの利点)
節の中だけを独立した文に戻せば It once was the advantage.(大規模であることは、かつては利点だった)。この the advantage の位置、つまり was の補語の位置に立っているのが that です。
「接触節」は、もとはイェスペルセン(Otto Jespersen)の contact clause の訳語です。日本の検定教科書や『総合英語』系の文法書には出てこない用語で、学校文法では同じ現象を「関係代名詞(目的格)の省略」として扱います。
ただ、この用語法の違いには単なるラベルの違い以上の含みがあります。学校文法の「省略」説は、the book that I bought という完全な形がまずあって、そこから that が「落ちた」という派生的な見方です。一方イェスペルセンが contact clause という語を立てた動機は、まさにこの見方への異議でした。名詞に節が直接「接触」する形は英語に古くからある独立した構文であって、何かが省略されてできたものではない——歴史的にも、that 型関係節と接触節型は別系統の構文で、後者が前者の省略形として生まれたわけではない、という主張です。
実際、読解指導の観点でも二つの見方は使い分けられます。「省略」説は文法問題(that を補いなさい)には便利ですが、読解では「省略されたものを復元する」という迂回を強います。接触節という捉え方は、「名詞+SV…という形を見たら、その場で節の中の欠落を探せ」という直接的な処理手順に対応しています。
では、この that は補語なのになぜ「主格」なのでしょうか?
英語の「格」は、代名詞の形の区別です(主格 I / who、目的格 me / whom など)。そして be動詞の補語は、主語とイコールの関係にあります。It was the advantage. (It = the advantage)
主語とイコールで結ばれるものは、文法上「主語と同じ資格」を持つとみなされ、主格で表すのが伝統的な文法の約束です。堅い英語で It is I.(It is me. ではなく)と主格を使うのと同じ理屈です。
だから、補語の穴を埋める関係代名詞も目的格(whom など)ではなく主格に分類されます。整理すると、働き(機能)は was の補語、格(形の分類)は主格です。「主格」というと「節の中で主語になる」場合しか思い浮かばないのが普通ですが、実は主格の関係代名詞には主語になる場合とbe動詞の補語になる場合の二つの用法がある、というわけです。
学習者は「主格の関係代名詞は省略できない」と習います。主語を省くと節の構造が壊れて読めなくなるからです。ところが補語として働く主格の that は、例外的に省略できる——むしろ省略されるのが普通です。
以下の例文がこの構文の最も身近な形です。
I am not the person (that) I was 10 years ago. 「私は10年前の私ではない」
I was の後ろに補語がない → 補語の穴 → 主格の that が省略されている、と読みます。
補足すると、「be動詞の補語=主格」というのはあくまで学校文法・伝統文法の分類で、現代英語の実際の運用では It’s me. のように補語に目的格を使うのが普通です。ただ関係代名詞の場合はそもそも that を使って whom とは言わないので、実用上は「補語の穴には that、そしてそれは普通消える」と覚えておけば十分です。