一昨日『キネマ旬報』2024年ベストテンが発表された。ちなみに『キネマ旬報』とは1919年創刊の日本の映画誌であり、アカデミー賞よりも10年も古い。(これが映画誌の表面であるとすると、裏面は『映画芸術』なのだが、この話は後日に譲る。)

ところで、一番困る質問の一つに、「オススメの映画は何ですか?」というものがある。これは、「オススメの本はありますか?」「誰かいい人いませんかね?」と同様、答えようがない。当然のことながら、人によって考え方も好みも千差万別であり、その中に「平均」などというものはないのである。

おまけに、僕の映画の好みは偏り過ぎている。なぜかと言うと、大学でシネマ研究会に属しており、いわゆる「評論家が好みそうな映画」ばかり観てきたからである。(ちなみに、自分で映画も製作していた。iPhoneとパソコンではなく、フィルムカメラで撮影し、それを接着剤で繋ぎ合わせて編集していた!)

そういうわけで、『アナと雪の女王』も『マッドマックス』も『鬼滅の刃』も観ていないし、観たいとも思わない。僕はそういう嫌な奴なのである(すいません)。だから、今回の「キネマ旬報ベストテン」に関するコメントも、映画監督を映画作家として見る視点で語っている。その点をご了承いただきたい。

さて、まず日本映画のベストテンであるが、自慢ではないが(映画館でも配信でも)1本も観ていない。したがって本当は語る資格はないのだが、1位の『夜明けのすべて』、2位の『ナミビアの砂漠』には注目しており、すでにWOWOWで放映したものを録画してあるので、近いうちにレビューしたい。

『夜明けのすべて』(三宅唱監督)の登場人物は、「月経前症候群でイライラが抑えられなくなってしまう藤沢さんと、パニック障害を抱える山添くん」であり、この二人がどうなるかは内緒であるが、同じ監督の『ケイコ 目を澄ませて』の主人公は、先天性の聴覚障害を持つ女性プロボクサーであり、『きみの鳥はうたえる』の主人公は、冷凍倉庫のアルバイトで知り合った僕と静雄である。うまく言えないが、これだけで、この監督を愛さずにはいられない。

『ナミビアの砂漠』は、自身が人生になにを求めているのかわからない女性の自分探しの旅を描く。題名はナミブ砂漠に由来するが、 「ナミブ」という言葉には、“なにもない”という意味もあるらしい。僕がこの映画になぜ注目しているかというと、監督(山中瑶子)が女性だからで、『ゆれる』の西川美和にせよ、『萌の朱雀』の河瀨直美にせよ、女性監督の繊細な映像描写、感情表現にはいつも感嘆させられてきたからだ。

3位は濱口竜介監督の『悪は存在しない』である。濱口監督は『ドライブ・マイ・カー』が素晴らしすぎて、個人的には是枝裕和監督なんかよりよほど好きだ。濱口監督の特長は「非常に知的」であるということである。こう書くと、「頭でっかちな映画はいらない、映画は娯楽だから」のような批判が聞こえてきそうだが、本当の知性は人を純粋な気持ちにさせる。少なくとも僕は「知性」は「美徳」であると考える人間である。

次は外国映画のベストテンを見てみよう。すっかり映画館に足を運ばなくなった僕でも、映画館で3本も観ているので、一応その3本については語る資格はあるかなあ?1位はクリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』である。公開前から世評の高い映画ではあった。内容は、原作「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を下敷きに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描いたものである。ノーランは、映画の本来的な意味で映像がすごい。ストーリーがどうこうではなく、映像がすべてを語るのだ。ノーランといえば、『インターステラー』には、はまった。タルコフスキーに通じる感性がある。「タルコフスキーって誰?」という人いるかもしれないが、「神」なので語れないです。『ノスタルジア』や『鏡』を見てください。ところで『オッペンハイマー』において広島・長崎が描かれていないという批判があるが、見当違いも甚だしい。ノーランはオッペンハイマーという人間を描きたかっただけだからである。

2位はヴィクトル・エリセの『瞳をとじて』である。まさかエリセの新作を観られるとは思わなかった。『ミツバチのささやき』の少女アナ(と同じ人)に、50年後同じセリフ「ソイ・アナ」と言わせるなんて、常軌を逸している。『ミツバチのささやき』って何?という人は、NHKBSで2/12に、つでに言うとその後の『エル・スール』も2/19に放映されるので、ぜひともご覧いただきたい。エリセはなんというかなあ、絵画のフェルメールを映像化したような画面作りで、タルコフスキーとは違った意味でやはり「神」である。

最後に紹介するのは、9位にランクインした『落下の解剖学』で、これは2023年のカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞している。この映画では、雪山の山荘で起きた転落事故を引き金に、死亡した夫と夫殺しの疑惑をかけられた妻のあいだの秘密や嘘が暴かれていくのだが、法廷のシーンで問題となるテーマは複数の「言語」である(あとは内緒)。

ちなみにパルムドールはアメリカのアカデミー賞なんかより、よほど選出のレベルが高く、僕も、パルムドール受賞作品は、なるべく映画館出観ることにしている。ちなみに、2024年受賞作『アノーラ』は2月下旬公開予定である。一緒に行ってくださる方は、是非ご連絡ください!

投稿者 shobota

都立高校で40年以上英語を教えている教員です。哲学や倫理に関心があります。

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