今回は早稲田大学商学部で2016年に出題された大問5の一節をどう和訳するかについて考えてみましょう。(著作権のことも考慮し、一節の引用に留めます。)

Growing evidence that countries where there is more inequality of income are places where there is less equality of opportunity helps us understand why the United States has become one of the advanced countries with the least equality of opportunity.

ここでGrowingは現在分詞でevidenceを修飾しています。「増大している証拠」という意味です。これをGrowingを動名詞として解釈し「証拠を育てること」と訳すとなぜだめなのか、検討してみましょう。

「動名詞」として解釈すると文法的・意味的に破綻する理由を順に示します。

① 文構造上の理由
文頭の “Growing evidence that…” の構造を見ます。
ここでの主語は “evidence” です。Growing evidence (that …) helps us understand why …
つまり主要動詞は “helps”です。”growing” は主語の一部である名詞 evidence を修飾しています。

もし “growing” を動名詞(名詞)として解釈するなら、”Growing evidence” 全体が「証拠を育てること」という主語になります。すると直後の “that countries where …” 以下は “growing evidence” に係る補文としては不自然になります。

名詞句 “Growing evidence” に “that節” が続くのは、”evidence” の意味的要求によるものであり、”growing” が動名詞だとこの統語構造は成立しません。動名詞句に that節が直接つくことはできないためです。

② 意味論的な理由
“grow” の動名詞 “growing” は「育てること」「成長すること」という意味の「行為名詞」ですが、
「evidence(証拠)」は「育てる」対象ではなく、「増大する(量的に)」ものです。したがって “the growing of evidence”(証拠を育てること)という概念は意味上きわめて不自然です。”evidence” は人為的に「育てる」ものではなく、「集まる・蓄積する」ものだからです。

③ 形容詞的用法の自然さ
英語では growing + 名詞 は非常に頻出の構文で、「増大する」「次第に強まる」という意味の形容詞的現在分詞です。
例:
growing concern(高まる懸念)
growing interest(増している関心)
growing inequality(拡大しつつある不平等)
したがって growing evidence も「増えつつある証拠」という定型的な語法です。

④ 結論
文法的に:”growing” は “evidence” を修飾する分詞であり、主語の一部です。意味的に”growing” は「量的に増える」という自然な形容詞的意味であり、動名詞にすると “evidence” が「育てる対象」になり、構文・意味の両面で不成立になります。したがって、この文の冒頭を「証拠を育てること(=動名詞)」と訳すのは、構文的にも意味的にも誤りになります。

ところで、この一節を含む文は、早稲田大学によると、Adapted from Joseph E. Stiglitz: The Great Divide, 2015)とあります。ところが検索した限りでは、The Great Divide, 2015)には該当の一節は見当たらないようです。(あいにく私はこの本を所有しておらず、直接原典を確認することができませんでした。)

ところが、同じJoseph E. Stiglitzの著書、The Price of Inequality(邦題:『不平等の代償』)序章(Introduction)に、この一節とほぼ同じ内容の一節があります。

“Growing evidence shows that countries with more inequality of income and wealth have less equality of opportunity. … This helps explain why the United States, now the advanced country with the most inequality, is also one of the countries with the least equality of opportunity.”

要するに、冒頭の一節は『The Great Divide』序文の直接の引用ではなく、スティグリッツの他文献と関連研究を踏まえたparaphrase/rewrite版である可能性が高いです。

投稿者 shobota

都立高校で40年以上英語を教えている教員です。哲学や倫理に関心があります。

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