今回は「海外旅行に行く人が増えている」の和文英訳を比較検討してみましょう。
以下の3つの文のニュアンスはどう異なるでしょうか?
These days more and more people are traveling abroad.
These days the number of people who are traveling abroad is increasing.
These days an increasing number of people are traveling abroad.
3文はいずれも意味は同じ「海外旅行に行く人が増えている」ですが、文体と焦点が少し異なります。
1は最も自然で口語的です。行為(traveling)そのものに焦点があり、日常会話やニュースでよく使われます。流れや勢いを感じさせる表現です。
2は形式的で説明的です。焦点は「人の数(the number)」にあり、データや報告文などで好まれます。やや重たく感じるため、会話では不自然に響くこともあります。
3は中間的です。1よりもフォーマルで、2よりも滑らかで、ニュース記事や論文の導入にも使える自然な文です。
ところで、こうした文が現在進行形で用いられることが多いのは、一時的な現象だからということもありますが、それだけではありません。現在進行形が使われるのは、「変化の途中である」「傾向が進行している最中」というニュアンスを出すためです。つまり、「一時的」というよりも、「今まさに進んでいる現象」や「近年進行中の傾向」を示す用法です。
These days more and more people are traveling abroad.なら、「最近、人々が海外へ行くようになってきている(その傾向が続いている)」という“進行中の変化”を表します。一方で、単純現在形(travel abroad)にすると、「一般的事実」や「恒常的な傾向」になり、動きの実感が薄れます。
2の表現について補足します。The number of ~ is increasingという構文は、数量の変化を述べる定型的な統計文体です。そのため、単独で感覚的に使われるよりも、データ・グラフ・調査結果の説明と結びつくことが多いのが実際です。理由は構文上、number ofという名詞句が抽象的な数量の変化を焦点にしており、読者が「どのくらい増えているのか?」を自然に期待するためです。
一方、More and more people are traveling abroad.のような構文では、感覚的・印象的な増加(話者の実感)を表すため、データの裏付けは必ずしも前提とされません。
最後にincreaseやdecreaseなどの動詞について、もう少し細かく研究してみましょう。細かく整理すると次のようになります。
increase / decrease:どちらも自他動詞両用ですが、increase は他動詞用法(“increase sales”など)も比較的自然です。一方 decrease は他動詞で使うとやや形式的・非自然に響くことが多く、実際には 自動詞中心です(例:The number decreased significantly.)。
decline / drop / fall:これらはほぼ自動詞専用です。特に decline は文語的で、「減少する」「低下する」という状態変化を静的に描く動詞であり、drop は口語的で、急激な変化を表す傾向があります。
reduceは明確に他動詞専用です。原因や主体を示したいときに使われます(例:The government reduced taxes.)。
「減る」方は動詞がたくさんあるのに「増える」はincreaseだけなのはなぜでしょうか?
英語では「減る」動詞が多彩なのに対し、「増える」はほぼ increase に集中しています。これは、英語の語彙体系が「減少」をより細かく区別し、「増加」は一般的動作として一括処理している傾向によるものです。
「減る」には decrease, decline, drop, fall, diminish, lessen, shrink, dwindle などがありますが、これらはそれぞれ「緩やか」「急激」「物理的」「数量的」など異なる含意を持ちます。減少は「崩れる・失われる」など多様な方向性を取りうるため、語彙が分化しました。
一方「増える」は、通常「上方向への変化」という一義的な動きしか持たず、意味の分化余地が少ないです。
類語として grow, rise, expand, multiply などもありますが、いずれも「増加」より広い意味(成長・拡大・膨張)を含み、数量的「増える」を正確に言う動詞は increase だけです。つまり、「増える」は単線的な概念であるのに対し、「減る」は多様な経路を持つ概念なので、語彙的に豊富なのです。
ところで、People traveling abroad are increasing.と言えないのは、なぜでしょうか?
increase は「増える」という意味を持つものの、“数・量・程度などの抽象的対象”にしか自然に作用しない動詞です。したがって、People are increasing というと、「人間そのものが繁殖して増えている」という生物学的な意味になってしまいます。
一方、文の主語が「数(the number of people)」や「割合(the proportion)」のような数量概念であれば、increase は正しく機能します。つまり:
〇 The number of people traveling abroad is increasing.(=海外に行く人の数が増えている)
✖ People traveling abroad are increasing.(=“旅行者そのもの”が増殖している)
言い換えれば、increase は「集合の要素」ではなく、「集合の大きさ」にかかる動詞です。ここが文法上の自然さを左右します。
audience や population のような語は、文法的には単数形でも 集合全体を数量的に扱う抽象名詞 なので、「数が増える/減る」という意味を直接とることができます。
〇 The population is increasing.(人口が増えている)
〇 The audience decreased after the intermission.(休憩後、観客が減った)
これらは語義の中に「人数」「規模」といった概念が含まれているため、わざわざ the number of を補う必要がありません。一方、people のような単純な複数名詞は、単に「個々の人々」であって「人数」という抽象概念を持たないため、increase のような数量変化の動詞を直接取るのは不自然になります。
最後におまけですが、学校で教えていると、高校生は圧倒的にThe number of・・・を好みます。その理由ですが、私の考えるには、この構文が日本語の語順と同じ並びになっているからです。本当はMore and more・・・から学ぶべきであるのに、一部の参考書や問題集が(生徒に迎合して?)The number of・・・をメインに取り上げているのは残念です。