今回は、『使うための英語』(瀧野みゆき、中公新書)の【第5章】【第6章】ををご紹介します。
ふだんの哲学系の新書は、「わからない部分を逐一解明していくスタイル」ですが、英語系の新書に関しましては、現在英語を教えており英語教育を大学院で学んだ私の目から見て気になった部分だけを取り上げてコメントしていきます。細かい部分に関しましては、直接本書を購入し、手に取っていただければと思います。「 」は原則引用部分です。
(ただし引用でなくても、「ELF」のように、ある用語に「 」を使用することがあります。)
なお*の後は、著者とは異なる私の個人的な「意見」「感想」や「研究」です。
【第5章 テクノロジーを活用する-英語の学び方4】
この本は、英語学習にテクノロジーを活用することを肯定的にとらえています。
その上で著者は、生成AIをアシスタントとして使う際のリスクを以下の3点にまとめています。
①生成AIの返答の不正確さ
②細かいニュアンスの喪失や改変
③AIへの依存による英語力の退化
こうしたリスクに注意を払いつつ、AIを用いて個別の英語スキルをどう伸ばしていくかが述べられます。
まずAIを用いたリーディングですが、特に「多読」に焦点があてられます。
多読が難しい理由は以下の3点にまとめられます。
①知らない語彙が多すぎて、調べるときりがない
②一度に集中して英語を読み続けられる時間が少ない
③日本語でなく、あえて英語で読む動機がみつけにくい
この3つのハードルを乗り越えるために、Pop-up Dictionary(Google Dictionaryなどの拡張機能)や英語読み上げ機能ソフト(Read Aloud:A Text to Speech Voice Readerなど)が紹介されています。
また、読む記事を選ぶための方策として、キーワードで特定の語を検索して、複数のメディアの記事を読むことが推奨されています。意見が偏らないようにするためです。
さらに、まったく新しい学習法として「生成AIとの対話による英語リーディング」が提案されています。まず自分の興味のあるテーマを選び、AIに質問し、そうした質疑応答を繰り返していく方法です。
* このサイトでも、日本語ですが「AIとの対話」を実践してきましたので、非常に興味があります。機会がありましたら、英語の倫理学入門書を題材にして「実演」してみたいと思います。
* 相手が生成AIに限らず、大切なのは「英語で質問する」能力を身に付けることです。私は高校生に英語を教える際に、「手を挙げて質問する」ことの重要性を非常に強調していますが、その真意を理解して手を挙げ続けてくれる生徒は非常に少ないのが現状です。
リーディングに続いて、AIを活用して「文法力」を伸ばすにはどうしたらいいかが検討されます。
著者は、文法を「網羅的に」学ぶのではなく、「使いながら」学ぶことを推奨しています。なぜならEFLユーザーにとって、「間違わないこと」よりも「話す中身」の方が重要だからです。
では文法の「運用力」は、どのようにしたら身に着くのでしょうか。著者はスペリングや文法のチェックにAIを活用することを勧めます。たとえばGrammarlyのようなソフトウエアの活用です。
特に、「スピーキング文法の運用力の伸ばし方」として、「AIを活用するスピーキング練習法」が取り上げられています。すなわち、自分のスピーチを録音した音声をAIを使ってテキスト化し、AIに文法の間違いを指摘してもらうような学習方法です。
【第6章 その先に-自分に合った英語を目指す】
いよいよ最終章です。まず、第1章で紹介された数人のELFユーザーの、今後の課題が考察されます。そして、そうした課題の解決策として、著者は「オンライン英会話」を高く評価します。
本書で面白いアイデアと言えば、同じスピーチ(プレゼン)を、別のインストラクター3人に3回繰り返し、予習・本番・復習と位置付けるという考え方です。学習方法と同様に、オープンマインドな気持ちを持つことの大切さも強調されています。
* 私自身は個人英会話レッスンは経験あるのですが、「オンライン英会話」はやったことがありません。そこまで効果的ならば、一度は試してみたくなりました。
この後「ビジネスに直結するリスニングとスピーキング」を伸ばす方法として、いろいろなビジネス動画を扱うサイトが紹介されています。
* 私自身はビジネスに全く関心がありませんので、これはバーナード・ウィリアムズの動画かなんかに置き換えて考えることにしました(笑)。皆さんも各自の興味・関心に合わせて読み換えていただければと思います。
この本の最後にCourseraが出てきます。Coursera は代表的な MOOC プラットフォームの一つです。MOOC (Massive Open Online Course) とは、インターネット上で誰でも受講できる大規模公開オンライン講座のことです。せっかくですから?、Courseraの紹介を英語でしてみます。
Coursera is an online learning platform that offers university-style courses, certificates, and degree programs. It partners with universities and companies (e.g., Stanford, Google, IBM) to provide video-based courses and graded assignments. Most content is self-paced, and many courses can be audited for free, with payment required for certificates or full programs.
* 実は私もCoursera Plusという課金するコースで1年間勉強し(1年で6万円くらいでした)、その一部はこのサイトにも書きました。その時の印象を簡単に書いておきましょう。
* 私が視聴したのは主に哲学や倫理に関する講座でした。レベルは大学学部レベルで、さすがに日本で言うと旧帝大や早慶の哲学の授業に比べると、その種類は見劣りします。
* それでもたとえばピーター・シンガーのプリンストン講義があり、その講義のゲストがマッカスキルだったり、認識論で有名なダンカン・プリチャードの講義があったり、やはりそうした人たちの生の英語に接する経験は、なかなか得難いものだったと言えます。
* 問題点としては、コースの途中で課されるテストは何回もリトライが可能で、そのうち答えを覚えてしまうという点と、オンラインで大多数を相手にしている関係上、論文を提出するまたは面接試験を受けるという経験ができない点、クラスメートとディスカッションする機会が(ないわけではないですが)得にくいという点です。
* あと、期限内に終了できなくても、期限を再設定することで続けられるので、どんどん課題を後まわしにしてしまうという難点があります。要するに、本書にもあるように「独習でコースを最後まで続けるには強い意志が必要」なのです。
本書の紹介の締めくくりとして、著者の次の言葉を紹介しておきましょう。
「個々のELFユーザーが、自分の英語のオーナーになれ。」