入試シーズンでもありますし、たまには大学入試の問題に挑戦してみたいと思います。題材は2023年北海道大学出題大問2の和訳問題です。著作権の関係もありますので全文を掲載することはできませんが、内容は「マイナー言語の母語を消滅から救おう」という内容です。
大問2で和訳問題は2題出題されています。1つ目は「言語学習が英語などのメジャー言語に限定されてしまうことは、マイナー言語の母語を守ろうとしている人たちには困った傾向である」という文の後の以下の英文です。
This is a trend that has been proved to be extremely worrying for those who have been actively promoting the teaching of native languages,……..
ここではこの文の中のproveについて焦点を当ててみたいと思います。ちなみに駿台『青本』の模範解答は「これは、母国語を教えることを積極的に推進してきた人々にとって極めて憂慮すべきことだと示されてきた傾向である。」となっています。一方旺文社『全国入試問題正解』の模範解答は「この傾向は、特に学校や大学で母国語教育を積極的に推進している人々にとって、極めて憂慮すべきことだと証明されています。」となっています。
「示された」も日本語としてはいまひとつこなれていないように思われますが、私はこの英文では「証明される」とは絶対訳せないと思います。なぜそう言えるのか、英語の prove の語法と、日本語の「証明する」という言葉のニュアンスの違いから解説します。
- prove to be の文法的性質
この文の has been proved to be extremely worrying は、受動態の形をとっていますが、もともとは以下の第5文型(SVOC)の形がベースになっています。
Active: (Experience/Evidence) has proved this trend to be worrying.
Passive: This trend has been proved to be worrying.
ここでの prove は、「数学や科学の定理を証明する」という厳密な意味だけでなく、「(実際に経験したり、時間が経ったりした結果)〜であるとわかる / 判明する」というニュアンスで頻繁に使われます。
- 日本語の「証明」と英語の prove のズレ
日本語で「証明する」と言うと、客観的な証拠や論理によって「真実であること(あるいは偽であること)を確定させる」という非常に強い、硬い響きがあります。しかし、英語の prove はより広く、「(実際にやってみたら)〜だと判明した」「(結果として)〜だということが露呈した」といった、事実の提示に近い意味を含みます。
今回の文脈は 「母語教育を推進している人にとって、この傾向(メジャー言語への偏り)が非常に憂慮すべきものである」というものであり、これは数学的な真理ではなく、社会的な現象や人々の反応として「実際にそうなっている(と判明している)」ということです。したがって、日本語で「証明されている」と訳すと、まるで科学実験の結果であるかのような大げさな響きになり、文脈に馴染みません。
3.推奨される訳し方
文脈(マイナー言語の保護)を考慮すると、以下のような訳がより自然で、英語の prove to be のニュアンスを正確に捉えていると言えます。
「これは、母語教育を積極的に推進してきた人々にとって、極めて憂慮すべきものだと判明している(明らかになっている)傾向である。」
あるいは、さらに意訳して以下のように訳すのが良いでしょう。
「これは、……人々にとって、極めて憂慮すべき事態であることが浮き彫りになった傾向である。」
次に、同じ大問2の別の和訳問題を検討してみましょう。和訳すべき下線部の英文は以下の通りです。
The issue of Icelandic becoming endangered is one that the academic community, as well as the government, have been quick to address.
The issue ofのofが同格であり、of becomingとつながり、その間にあるIcelandicは形容詞ではなく「アイスランド語」という名詞で、いわゆる動名詞の意味上の主語なのですが、これをきちんと理解している学習者は少ないです。
しかし今回はbe quick toという表現に注目してみましょう。be quick toは「迅速に~する」という意味ですが、この不定詞はどのような用法でしょうか。
実は、この不定詞は副詞的用法です。不定詞の副詞的用法にはいくつか種類がありますが、be quick to の場合はその中の「形容詞修飾」に該当します。
1.構造: Subject + be + Adjective + to do
役割: 不定詞句が直前の形容詞(この場合は quick)の内容を詳しく説明し、限定しています。
「何において quick(素早い)なのか」という範囲や対象を後ろから補っているため、形容詞を修飾する副詞と同じ働きをしているとみなされるのです。
- 形容詞修飾の代表的なパターン
be quick to と同様の構造を持つ表現は多く、いずれも入試では副詞的用法(形容詞修飾)として扱われます。
(難易) This book is easy to read. この本は読むのが簡単だ。
(感情の原因) I am happy to see you. あなたに会えて嬉しい。
(判断の根拠) He is kind to help me. 私を助けてくれるとは親切だ。
(性質・傾向) She was quick to react. 彼女は反応するのが早かった。
- 文法的な補足:形容詞の補文(Complement)
より専門的な英文法(生成文法など)の観点では、これらは「形容詞の補文(Adjective Complement)」と呼ばれます。形容詞が意味を完結させるために必要とする「補足要素」という考え方です。
4.推奨される訳し方
学術的な正確さと、自然な日本語を意識すると、以下のような訳が考えられます。
「アイスランド語が絶滅の危機に瀕しているという問題は、政府のみならず学界もまた、いち早く対策を講じてきた課題である。」
・address は「住所」ではなく、深刻な課題などに「取り組む、対処する、向き合う」という意味で、入試頻出の重要語彙です。
・A as well as B は「BはもちろんAも」と訳されますが、ここでは the academic community(学界)と the government(政府)という二つの公的な主体が並んでいます。 文脈上、学界と政府が足並みを揃えて、あるいは共に危機感を持って動いていることを示すため、「〜のみならず〜もまた」といった表現が適しています。
・完了形 have beenと現在完了形が使われているため、過去のある時点から現在に至るまで、継続的にその姿勢(迅速な対応)が取られていることを示唆しています。