入試シーズンですので?2023年一橋・大問1・第4パラグラフの文法的構造について考えてみましょう。

対象の文は以下の文です。(全文を掲載したいところですが、著作権の関係上できません。各自「過去問データベース」(リンク)などを参考にしてください。)

To get at that flesh, we had to learn to make weapons and tools, which required using our brains. These in turn grew, a development that some scientists attribute to the intake of calories from animal protein, suggesting that we are who we are — the intelligent humans of today — because we eat meat.

この文で問題になる点は、第2文の1.Theseが何を指すか 2.grewの後になぜカンマが付いているのか 3.a development thatのthatは何者か、などです。

以上の疑問点の解答を示します。

  1. “These” が指すもの
    “These” は直前の文にある “our brains”を指しています。 直前の文で、武器や道具を作るためには「脳を使うこと(using our brains)」が必要だったと述べられています。その結果として、使われた「脳(brains)」自体が「成長した(grew)」と考えるのが、生物学的・文脈的に最も自然です。 “These” は複数形なので、前文の複数名詞である “weapons,” “tools,” “brains” のいずれかを指す可能性がありますが、後続の “a development”という言葉で修飾されていることから、器官としての成長を指す “brains” が適切です。
  2. “grew” の後のカンマと文の構造
    このカンマは、「文全体(または主文の内容)を言い換える同格」を導くためのものです。
    構造: [主節: These in turn grew] , [同格語句: a development ]

この文は、These in turn grew. という完全な文の後ろに、その事象(脳が成長したこと)を “a development”(一つの発達) という名詞で一言にまとめ、同格として置いています。

*英語では、前の節の内容を abstract noun(a development, a fact, a move など)で受けて、カンマで繋ぐ表現が頻出します。
例:He won the race, a result that surprised everyone.
(彼はレースに勝ったが、それは皆を驚かせる結果だった。)
この文もまさにこの構造であり、「脳が成長したこと、それは(a development)……」と展開しています。

  1. a development that のthatは “a development” を先行詞とする関係代名詞の制限用法で、「一部の科学者が動物性タンパク質からのカロリー摂取に起因すると考えている(発達)」という意味になります。

文全体の構成:
後に続く “suggesting…” は、文全体を意味上の主語とする分詞構文(付帯状況)です。

全体の流れ:(道具を使うことで)脳が成長した。→それは、一部の科学者が肉の摂取のおかげだと言っている現象である。→その実は(suggesting)、私たちが今日のような知的な人間であるのは肉を食べているからだ、ということを示唆している。

直後の文で “But others credit the discovery of fire…”(しかし他の科学者は火の発見のおかげだとしている) と続くことからも、このパラグラフが「脳の巨大化(a bigger brain)の原因」を巡る二つの説を対比させていることがわかります。

ここで各社の和訳を比較してみましょう。

A社の訳「・・・武器や道具を作ることを学ばなければならず、それには武器を使う必要があった。それが次に・・・・であるとする発達につながり・・・」

この訳文は、残念ながら非常に精度の低い意訳と言わざるを得ません 。

  1. 「武器を使う必要があった」という誤認
    原文は which required using our brains で、「脳(brains)を使うこと」を必要とした、と述べています 。

A社の訳は「武器を使う必要があった」としており、目的語を取り違えています 。文脈としても「知力の欠如を道具で補い、そのために知力が必要だった」という人類進化のパラドックス(あるいは相互作用)を述べている箇所であり、単に「武器を使う」としてしまうと論旨が崩れてしまいます。

  1. “These” の照応先の誤り
    原文は These in turn grew です 。前述の通りTheseは複数形の brainsを指しています 。
    A社の訳は: 「それが……つながり」としており、単数(または事態全体)として受けています。英語において複数代名詞 These が用いられている以上、直前の複数名詞(ここでは brains)を具体的に指すと考えるのが自然です。
  2. 文格構造(同格)の無視
    原文の , a development that… は、主節の内容を名詞で言い換える「同格」の形です 。
    「これらの(脳が)次に成長したが、(それは)…という発達であった」という構造です 。

A社の訳は「発達につながり」と訳しています。lead to a development のような意味で取っているようですが、原文に「つながる」という動詞(動的な因果関係を示す語)はありません 。あくまで grew(成長した)という事実を、a development という名詞で再定義しているに過ぎません 。

B社の訳はどうでしょうか。
「・・・我々は武器と道具を作れるようにならねばならず、そのためには自分たちの脳を働かせる必要があった。このせいで脳が発達したのだが、この発達を何人かの科学者たちは・・・・と考えていて」

B社の訳は、A社のものに比べると格段に精度が高く、原文の構造を誠実に反映しようとする姿勢が見て取れます。文法的な観点から、以下の3点を高く評価できます。

  1. 目的語の正確な把握
    原文の using our brains を「自分たちの脳を働かせる」と正確に訳しています。
    理由: A社が「武器を使う」と誤読していた箇所を、正しく「知力の使用」として捉えています 。
  2. “These” の照応関係の処理
    These in turn grew を「このせいで脳が発達した」と訳しています。These を直前の brains と同定し、意味を補って「脳が」と明示している点は、読解として非常に優れています。また、in turn のニュアンスを「(脳を使った)結果として(脳が成長した)」という因果関係に含めて解釈している点も、文脈をよく汲み取っています。
  3. 同格構造の適切な日本語化
    , a development that… を「この発達を……と考えていて」と、一旦文を切って繋げる形で処理しています。英語の「名詞による同格」は、日本語ではそのまま名詞で繋ぐと不自然になりがちです。B社は「発達した(動詞的)」→「この発達(名詞での受け)」という形で、文法的な同格関係を論理的な繋ぎとして過不足なく訳出しています 。

C社の訳はどうでしょうか。
「その肉を手に入れるためには、私たちは武器や道具を作ることを学ばねばならなかったが、それには頭脳を使う必要があった。そして今度はこの脳が増大したのだ。動物性たんぱく質由来のカロリー摂取が原因となり・・・」

C社の訳も、B社と同様に非常に精度の高い、優れた解釈に基づいています。

  1. “These” の処理:具体化と文脈の接続
    「そして今度はこの脳が増大したのだ」と訳しています。A社のように「それ」と濁さず、複数形の These が指す対象が brains であることをはっきりと見抜いています。また、in turn を「今度は」と訳すことで、道具を作ったことが原因となり、次に脳が影響を受けるという進化の順序(フィードバック・ループ)を鮮明に表現しています。
  2. “grew” の後の構造:文の切り離しによる明快さ
    B社と同様に、カンマ以降の同格名詞句(a development…)をあえて独立した文章、あるいはそれに近い形で「〜が原因となり……」と繋げています。
    原文の , a development that… は、直前の「脳が増大したこと」全体を指す名詞による同格です。C社はこれを「(脳が増大したこと)=(一つの発達、進展)」と捉え、その発達の原因へとスムーズに読者を誘導しています。
  3. “using our brains” の正確な訳出
    「頭脳を使う必要があった」と正確に訳しています。
    ここでもAのような「武器を使う」といった初歩的な取り違えはなく、文脈を正しく把握しています。

ひょっとすると、この部分は難しすぎたのであえて独立した「下線部和訳」の問題としては出題されなかったのかもしれませんね。

投稿者 shobota

都立高校で40年以上英語を教えている教員です。哲学や倫理に関心があります。

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